卒業生の声
幅広い視野と複眼的な思考で課題と向き合う生活を楽しむことも忘れないで
鋪田今日子
独立行政法人国際協力機構JICA
2025年卒業
指導教員:藤掛洋子
研究テーマ:
連帯と交渉の「鍋」─ペルー・リマ市の周縁部における食支援活動を事例に─

Q1.当領域への進学の経緯
社会のことをより深く理解するための俯瞰的な視点を養うことを目指し、進学しました。
私は、他大学で栄養学を専攻した後、管理栄養士として、医療の現場で健康・栄養課題を抱える人たちの支援を行ってきました。前職でさまざまな人との関わりを通して、栄養課題の解決のためには、「栄養学的な知識・アプローチだけでは不十分である」という問題意識を抱えるようになりました。浮き彫りになっている問題の背景には、さまざまな社会課題が複雑に絡み合っている状況があることから、支援の難しさを常々感じていました。
また、以前から関心があった国際協力の道へ進むために、JICA海外協力隊としてフィリピン派遣に向けて準備をしていたのですが、コロナ禍により派遣が延期となりました。このような状況下で、大学院進学を検討することになりました。その際、より専門的な分野で学ぶべきか、あるいは自分にとって新たな領域を選ぶべきか非常に迷いました。しかし、自分に必要なことは何かを熟考し、先述の問題意識を踏まえ、人文社会領域を専攻することに決めました。
Q2.大学院卒業から、現職までの経緯
社会人採用でJICAへ総合職として入構しました。
JICA海外協力隊として活動する任国はペルーへ変更になりましたが、大学院を休学し、現地での2年間の活動を無事に終えることができました。この経験を通じて、より大規模かつ創造的な国際協力事業に従事したいという思いが強くなりました。一方、国際協力への携わり方は幅広く、JICA事業においても職員だけでなく専門家等さまざまな立場があり、生かせる経験も多様です。多くの選択肢があるなかで、大学院での学びを生かしながら、課題に対して多角的にアプローチしたいという思いから、総合職の立場で国際協力に携わる道を選択しました。
Q3.院生活が現在にどのように活きているか
大学院での授業では、留学生を含む多くの学生と議論を重ねる中で、一つの物事に対して多様な考え方が存在することを学びました。異なるバックグラウンドを持つ人々の視点を理解し、共に考えることで、新たな視点や気づきを得ることができる貴重な経験でした。
また、ペルーでのフィールドワークでは、研究者としての自分が、研究対象の人々に与える影響についても深く考えさせられました。質的調査において、研究者が「外部者」として、特定のコミュニティに入り人々と関わる際には、研究者の文化的背景や価値観がフィールドワークにどう影響を与えているかを常に意識しなければなりません。そのなかで、より具体的で重要なデータを得るためにも、時間をかけて研究対象者との良好な関係性を築くことが大切だと思います。私の場合、できるだけ人々の生活に溶け込み、食事を共にしたり、休日に自宅を訪れたりすることで、交流の機会を増やし、関係を深めていきました。そして、研究者という立場ではなく、一人の人間として、友人として、素になって本音で話すことも忘れませんでした。こうした信頼関係という土台があったからこそ、地域の行事に招待されたり、総会に参加することを許されたりして、人々のリアルな経験や考え方に直接触れることができたと考えます。その結果、調査の内容がより豊かで深みのあるものになったと感じています。
研究の場に限らず、あらゆる場面において、他者との関わりや信頼関係は非常に重要になると思います。大学院生活で培った豊かな思考力や、多様な考えを受け入れる力は、さまざまな人との協働において、大いに役立つと確信しています。
Q4.今後の目標
保健・栄養分野という軸となる専門領域に加えて、さまざまな課題や地域に関する知識と経験を広げていきたいです。幅広い視野をもって、国際社会が抱える課題と向き合い、多様な人々や組織と手を取り合いながら、革新的な事業を推進する一員として貢献したいと考えています。
Q5.後輩へのアドバイス
人文社会領域は学際性があることが特徴であり、研究テーマに対して多角的な助言が受けることができることが強みだと思います。一つの分野にとらわれない複眼的な思考を身に着けることができる環境のなかで、いろいろなことに挑戦してみてください。