卒業生の声

研究生活で獲得した多角的な視座=寛容なこころ

須賀郁子

須賀郁子

学校法人 日本教育財団 首都医校

2022年卒業
指導教員:藤掛洋子
研究テーマ:
ホームレス支援の医療人類学的研究 ―ハウジングファースト東京プロジェクトに関わる医療者たちの眼差しの変化―

須賀郁子

Q1.当領域への進学の経緯

私は看護師として3か国で働いた経験があります。最初は東京の病院で急性期医療に携わり、その後青年海外協力隊員としてエクアドルの農村地域で保健医療活動を行い、さらにスイスで10年間ジュネーブの病院に勤めました。当初は日本に戻るつもりはありませんでしたが、帰省した際、上野公園で高齢男性が炊き出しのために長蛇の列をなしているのを見て、スイスの友人に、「日本人はこの状況をどのように考えているの。貧困問題に対して無関心だよね。」と聞かれたことで、私の中に問いが生まれました。確かに私が勤めていた病院の人は「ホームレス」と呼ばれる人に関心を示していませんでした。それはなぜなのかを探求したいと考え、日本に戻り大学院で学ぼうと考えました。日本に帰国後は、池袋で行われている炊き出しや夜回り、無料の医療相談会に参加するようになり、支援制度はあるけど路上で生きる人が支援に結びつかないことに疑問を抱くようになりました。しかし、看護系の研究者で国内のホームレス状態にある人の状況について研究する人が少ないことに気づき、大学院探しは難航しました。そのような中、藤掛洋子教授に出会います。藤掛先生はパラグアイで社会の周縁に生きる人々のために研究と実践活動を行っており、その姿に感銘を受けました。また、私が参与観察型の調査を考えていたことから、人類学も学べる都市イノベーション学府に進学することを決めました。

Q2.大学院卒業から、現職までの経緯

大学院修了後は、入学前から勤めていた医療・リハビリ・スポーツ総合校である首都医校で教職を続けています。日本に帰国後、教職を選んだ理由の一つは、ホームレス状態になってしまう人々の状況を看護学生のうちから伝え、多角的に物事を分析する力を育てたいと考えたからです。新宿西口のコクーンタワーにある首都医校は、社会人経験がある入学者も多く、全国から幅広い層が集まります。私は様々な人生経験を持つ学生だからこそ気づけることがあると考えており、医療という枠から外れてしまう人々の「声」に察知できるような看護師を育てることを心がけています。

Q3.院生活が現在にどのように活きているか

1.授業やゼミでは社会科学の古典を学ぶのですが、それにより社会を構成している文化やシステムについて意識が向き始め、ニュースや職場、家庭での出来事の見方が変化しました。また教員とのディスカッションや論文執筆を通して、自分が「医療者としての視座」に囚われていたことに気づき、その視座から脱却することで、外側から医療や看護を分析できるようになりました。これにより、医療や看護の理解が深まり、教育に役立っています。

 

2.視座が広がったおかげで情報収集の質と量が向上し、多角的に分析する力が身に付き、職場や私生活での課題に対処できるようになりました。また物事を系統立てて考える習慣は授業作成や実際の授業でのプレゼンに活かせています。

 

3.仕事と大学院の両立をすることは難しかったですが、どのような状況においても最後までやり遂げる自信がつきました。修士・博士論文は長い道のりでした。自身の問いに対して調査はしたけれども、論文としてどのような形にするのか何度も悩み暗い海の中を泳いでいるようでした。しかし初心を忘れずに問い続けることで、道は必ず開けるということを学びました。

Q4.後輩へのアドバイス

皆さん方の中で芽生えた小さな問いを大切にしてください。またその問いの答えを単に探すだけではなく、なぜ自分はその問いを立てたのか、その根源にあるものを探求してみてください。社会科学系の大学院で研究を学ぶということは、同時に自分自身の人生を豊かにすることにつながります。ぜひ都市イノベーション学府の扉を叩いてみて下さい。。

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